『長いながい道』

5.0
本のレビュー

『長いながい道』の概要

タイトル 長いながい道
著者 竹内 恒之
ISBN-10 4036340107
ISBN-13 978-4036340101
発行年 1980年
出版社 偕成社

レビュー

東京都内に住む小学5年生・岡田正一と、病気により中途失明した父・正人をめぐる物語。著者は障害福祉関連の児童文学を多く手掛け、本作も第27回青少年読書感想文全国コンクール課題図書にエントリーしている。

冒頭、目の見えない父をさりげなく介助する正一のようすが描かれるが、それだけでも移動時の手引きのしかた、クロックポジションによる位置の説明など、基礎的な介助の方法が伝わるようになっている。それとともに点字表示や点字ブロック、誘導チャイム、白杖といった、バリアフリーの設備や用具の重要性について語られるが、こうした多少の支援さえあれば、障害者であっても音や匂い、触覚などで正しく環境を理解できることも、父の行動を通じてありありと描写されており、あとがきにあるような「障害をもつ人がふつうの人である」という主題を補強している。

一方で障害者福祉会館の建設をめぐる地域住民の反対運動、頼りにならない行政機関など、障害者に対する偏見から巻き起こるさまざまな問題が大きくクローズアップされており、すでに40年以上前の児童書ながら、世の中はさして変わってはいないということも痛感させられる。こうした問題から派生して、人間としての尊厳とはなにかということにも思いを馳せる余地を与えている良書だと思う。

著者について

竹内 恒之(たけうち つねゆき)

1942年東京生まれ。日本児童文学者協会会員。早稲田大学第一商学部卒業後、毎日新聞社に入社、「点字毎日」編集長などを経て、東京ヘレン・ケラー協会理事・点字出版所長として同協会の月刊誌『点字ジャーナル』編集に携わる。著書に『とべ!おり紙トンボ』(偕成社、1982年)、『トライだよ、トコちゃん』(偕成社、1990年)、『バリアフリーの本(1) 目に障害のある子といっしょに』(偕成社、2000年)、『盲導犬が日本に生まれた日-国産盲導犬第1号チャンピイを育てた塩谷賢一』(偕成社、2004年)などがある。